🚗 子供との面会日、告げられた衝撃の一言
いつものように、子供との面会日。
私は車を走らせ、迎えに向かいました。目的地は、かつて半年間だけ暮らしたあの新築の家――もう「我が家」とは呼べない場所です。
出迎えてくれるのは、毎回決まって義父母。いつも通りの光景のはずでした。
でも、その日は、どこか様子が違いました。 玄関先に現れた義母が、私にそっと近づいて小声で言いました。
「ガンだって。バチが当たったんだわ」
突然の言葉に、思考が一瞬止まりました。
「……え? 誰のことを言ってる?」
義母の会話には主語がないことが多く、これまでも文脈を自分で補って聞くことが当たり前になっていました。
けれど、この内容だけは簡単に流すわけにはいかず、混乱したまま、言葉の真意を探っていると、子供と妻が玄関から出てきました。
会話の続きを聞く間もなく、私は子供を車に乗せました。
🎗️ 子供の言葉が明かした真実
その車内で、子供があっさりと核心に触れる一言を口にしました。
「ママ、病気なんだって。今度、入院するんだよ」
――あぁ、妻のことだったのか。
でも、その瞬間、不思議なほど自分の感情が何も動かないことに気づきました。 驚きも、悲しみも、怒りも、何ひとつ湧いてこない。 ただ、“無”でした。
それ以降の面会日、妻は帽子をかぶるようになりました。 子供はそんな母親に「ハゲ」と無邪気にふざけていましたが、帽子の下に隠された現実が、少しずつこちらにも見えてきました。

🏡 義母からの申し出と父親としての決断
しばらくして、義母から連絡がありました。
「妻が1週間入院するから、その間だけでも新築の家に戻ってきて、子供と過ごしてくれないか?」
――もちろん、心のどこかでは、子供と毎日一緒に過ごせる日々を取り戻したいという気持ちがありました。
それが叶うなら、どんなに嬉しいか。でも、私はその願いをぐっと飲み込みました。
一度戻ってしまえば、子供に“家族が元に戻る”という期待を与えてしまう。 それは、今の状況ではあまりに残酷すぎる。
後日、義母と顔を合わせたとき、私はきっぱりとその申し出を断りました。
💔 妻の病――それでも芽生えない感情
妻の病気は、ステージ1の乳がんだったそうです。 早期発見だったことが幸いでしたが、私の中には、心からの同情や心配といった感情は不思議と芽生えませんでした。
そのころ、離婚交渉は開始から1年が経過していました。 ようやく終わりが見えてきたかと思った矢先―― 妻から、またしても新たな条件が加えられました。
私はまた、深いため息をつくしかありませんでした。
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